春の七草は七草を食べて無病息災を祝うとされていますが、秋の七草は眺めて楽しむものです。一千年以上も昔から私たちの心へ受け継がれてきた秋の七草。
秋の七草を山上憶良は『万葉集』に次のように詠んでいます。
萩(ハギ)

万葉の時代、秋は「萩」と決まっていたようです。万葉集の中で萩の花を詠んだ歌は141種あるといわれています。古くから、新芽は萩茶に、葉は家畜のえさに、枝は屋根材や炭俵・ほうきに、花は染料、干した根は薬用に利用されていました。

尾花とはススキの花穂が出ている時の呼び名です。ススキは私たちの暮らしになくてはならない植物でした。茎葉は屋根材や家畜のえさに、根茎は解熱・利尿に用いられていました。お月見にススキを供えるのは、豊かな穂が実りの秋を連想させるので、豊作を祈願したものといわれています。

山野のいたるところにはびこって他の植物を圧倒するほどの生命力です。昔からクズは生活に役立ち、根は葛粉として食用に、また葛根湯として薬用に用いられてきました。私は風邪を引いたときには葛根湯入りの風邪薬をよく飲んでいます。つるは編んで籠にします。近年は土壌保全植物として世界各地で砂漠緑化や堤防決壊防止に利用されています。

繊細なピンクの花です。和名は小さくて可憐な花を愛児になぞらえたもので、かつて「大和撫子」といえば日本女性の代名詞でした。つつましく控えめな女性をイメージしたようです。『万葉集』では26種詠まれています。

秋風にゆらぐ優しい黄花のオミナエシ。『万葉集』では14種詠まれています。茎や根に特異な腐敗臭があるので、茶花としては好まれなかったようです。漢方では利尿・排膿に用いられました。
『万葉集』では山上憶良の詠んだ1種だけです。『源氏物語』の藤袴の巻には夕霧が玉鬘(たまかずら)に贈る花として登場します。川原などの自生地を奪われ絶滅危惧種に指定されています。
山上憶良が「朝貌(あさがお)」と詠んだ植物が何であるかは諸説があります。アサガオは熱帯アジア原産で、渡来したのは平安時代だということですから、万葉の時代はないはずです。今ではキキョウであることが定説になっています。
ススキとクズとハギ以外は山野から次第に姿を消しつつあります。このたびデジカメで写真に撮ろうと山野へ出かけましたが、ナデシコやキキョウ・オミナエシ・フジバカマは少なくなりました。日本の秋の原風景と秋の七草を次世代へ大切に伝えていきたいものですね。